最初のテスト撮影 2007年4月7日 この絵を見て広い絵は作れると感じた写真。
「DINO!」に課した前提条件
メイキングで記した作り方でやろうと考えたのは、制作を始めた2007年当時はまだまだコマ撮りが特殊で、制作の参考になる情報も少なくて、こういう機材がないと出来ないとか、こうしないと難しいという敷居の高さがあったため、それではなかなか裾野が広がらないのではという想いがありました。そのため作る前に2つのルールを考えました。
その1:『特別な道具を使わない。高価な器具は使わない』
その2:『狭い環境で広い絵を作る』
まずその1について。コマ撮りは市販されていない特殊な器具を使うことが多いけれども、そんなに工作力がなくても出来るといいなと思ったことと、お金がかかるというイメージの払拭がしたかったというのがあります。そんなわけで古いものや程度の低いものを多用してます。(ランチボックスだけは入手困難でしたが。)
その2については、日本の人形アニメーションは多くの場合、制作場所がなくて世界観を狭く考えるしかないというジレンマがあります。個人制作者で専用のアトリエを持っている人や、「部屋」以上の広い空間で撮れる人はほとんどいないと思います。撮影場所と造形場所を分けることも結構大変です。だからセットを作ったとしても壁に囲まれた空間や室内を舞台にするしかなく、抜けの空間を作ることが難しい。しかしそれだけでは作品の発展が望めないので、一部屋の中でどこまで撮影に工夫が出来るか?をひたすら行ったつもりです。そのためにあえて物語を広い空間設定がないといけない冒険ファンタジーにしたというのはあります。
つまりこの作品で技術的にやりたかった事は、映画で見るような大掛かりなコマ撮りは、大きなセットや特殊な道具や設備がなければ絶対に出来ないというイメージの払拭でした。そういうコマ撮りを行いたい人が、自身の置かれた環境を見て諦めてしまう事はもったいないと思ったのです。だから真似出来ることを目指しました。
そしてDINO!を撮っていた場所から引っ越した今、撮影台は立って使用出来るようになったけれども、部屋が小さくなってセットサイズはさらに小さくなりました。比例して撮影スペースも小さくなりました。広い絵作りをしたいということは変わらないけれども、さてこれでどこまで何が出来るのか?
制作期間のこと
制作期間13年という年月は、普通に考えると非常に長い時間です。
でも時間がかかりすぎたのはじっくり時間をかけたかったからというわけではありません。たとえ「アニメーション作家」を名乗っても仕事をしながら作ることは難しく、学生時代に1作作れても卒業したら2作目が作れないという人はたくさんいます。幸い、自分自身はコマ撮りの仕事はしている(いた)けれども、人形アニメーションは時間がかかるというイメージだけは崩せなかったので、すごく悔しい。だから13年という年数は継続のすごさではなくて、自分としては他者の参考にならない悔しさの象徴です。
仕事と自主制作
仕事をしていれば優先されるのは自主制作より仕事です。仕事は一人で完結するものではなく責任もあるし、仕事をすることで生活が成り立って自主制作も出来る。当然、仕事でコマ撮りを行う場合はスケジュールがしっかりしていますから、1日とか数日など決められた中で仕上げます。しかし仕事をすればするほど自主制作の時間は少なくなります。2012年の春までは非常勤講師とアニメーション制作の仕事をしつつ、さらにDINO!の制作をして作品全体の2/3くらいまでを仕上げることが出来ました。専任になった2012年以降に9年かかって1/3を撮影したという事です。でもそれはやり方の問題かもしれないし、何が悪いと言うことではありません。(ただし、学校は教えるだけじゃなくて年中ずっと事務仕事が続くということは伝えたいので書きます。)
もしも数分の作品だったら数本作り終えていたとは思うから、尺が長い作品を作り始めた以上、こうなるのは必然だったかもしれません。ただし、短編をずっと積み上げるだけではその先は見えてこないと思うのです。
20代から撮っていたDINO!が完成した時、自分は40代になっていました。若い頃も制約があるけれど、年を重ねても年齢で区切られることは出てきます。
なので、もし今どこかの学校の学生で卒業してからも制作を続けたいと言うならば、とにかくなるべく早く2作目を作って表に出すことです。これは今だから出来るアドバイスだと思います。
アニメーション作家と言っても教員の時間の方が長くなってしまい、染み付いた感覚がどうしても文章に反映されていると感じます。人形アニメーションの裾野を広げることが出来るならばと教員の誘いを受けたけれども、専従になると学校は広い意味での人間教育の場だと知ります。求められる仕事内容と自身の希求した事との違いが、どう自分をここで立脚させるかという問いになったのは確かで、気持ちの面で発信する立場から一歩引きました。
作っている間に様々な作品が世の中に出てきて、「おおすごい!」と思うことも多々ありました。そして完成の前後にフィギュアコマ撮りやPUI PUIモルカーが爆発的ヒットをし、コマ撮りに対する認識や手を出す敷居は2019年から2021年初頭にかけて大きく下がりました。だから本来やりたかった事を、自分の作品が完成した前後に、本当に奇跡的なタイミングで、何人もの方が外に向かって達成されたのを見て、悔しいというような自己顕示欲は薄い代わりに正直に言って学校とはなんだろうと思います。でもそれらの影響で学校に来る人をサポートするのは中にいる人の役目です。学校発信で才能が生まれたら社会でどう受け入れてもらえる環境が出来るかを考える。でも社会からの発信で学校にくる人が増えるようなことがあれば学校はきちんとそれに対応しないといけない。すぐに学校と社会が分断してしまうことは学校が注意しないといけない点ですし、業界側の学校への理解も必要です。両方が互いに理解し合いながらコマ撮り、人形アニメーションが発展していく事を願います。
学校に居るのも永遠ではないですが、居るうちはきちんと使命は果たしたいと思っています。
DINO!を作り始めた頃に感じていた一般的には「出来ない」は、今はむしろ「誰でも出来る」になってきたと思います。だから自分の(自分で言うけれど)若干常軌を逸した撮影方法が参考になるのか・ならないのかは正直わからないです。メイキングを撮っていなくて、自分でもどうやったか忘れちゃったみたいな、すでにロストテクノロジーになっている部分もあります。それでも、既存のものは使わずにラフな造形と撮影でもこんな感じのものが出来るんだなくらいには思ってもらえると嬉しいです。
そして、これを個人で作ったのは、家で撮っていた事と仕事後の夜や空いた日にしか撮れなかった事に尽きます。誰かに頼むにもあてがなかったのもあるけれど、誰かに頼める状態ではなかったです。それも正直個人制作の問題点だと思っていますが、最近はそれを超えていく方々が出てきているので、すごいなと率直に思います。