日本のコマ撮りアニメーション 平成〜令和(2020年代編 半)

2020
前年末から少しずつ海外で流行り始めた“未知の風邪”が1月中旬から日本でも蔓延。あっという間に全国に広がり、4月には外出自粛を伴う緊急事態宣言が出るほどのパンデミックになりました。小中高校や会社はリモートになり、大学も例外ではなく入学式も行われないままにリモート授業を開始。コマ撮りの授業も学校で集まって制作する事が出来ないという前代未聞の事態がおとずれます。私も含めて各大学の先生たちは人形の制作キットを郵送したり、リモートで出来る限りの指導を行うことになりました。
しかしそれでも19年度作品として多摩美術大学研究生の周小琳さんの「十二月」、武蔵野美術大学の葭原武蔵さんの「坂の街・尾道」といった作品がありました。

一方でコロナ蔓延以降はなかなか外出が出来ないため、テレビや動画を見て過ごす時間も増えました。そんな時に聞こえてきたのは「ゼスプリ『キウイブラザーズ(好きなことを楽しみながら)』」の軽快な曲でした。制作は『dwarf』。アニメーターは峰岸裕和さん、篠原健太さん。
そして「こまねこ はじめのいっぽ」の時代から制作の裏側の発信を続ける『dwarf』は、5月に撮影の杉木完さんによる「こまちゃんと踏み出す『バレ消しはじめのいっぽ』」のyoutubeライブ配信を行います。バレ消しのわかりやすい解説を制作の参考にした人も多かったと思います。さらに8月にはdwarf²(ドワドワ)という有料会員サイトを始めました。

シルバニアファミリーは35周年を迎えて、ブランドムービーを公開。アニメーターには過去のシルバニアファミリーのCMにも関わっていた垣内由加利さんが参加しました。
そのシルバニアファミリーの赤ちゃん人形を使い、エヴァンゲリオンのフィギュアを親に見立てた「エヴァ初号機がシルバニアの赤ん坊を寝かしつけるコマ撮り」を阿部靖子さんが制作して話題になりました。
村田朋泰さんはハイキュー!!の第42話の付録で人形アニメ ハイキュー!!」を制作。アニメーターは三宅敦子さん。
フィギュア系でいうと亀井(plamoo)さんが、グッドスマイルカンパニーの発売した、映画「ロボコップ」のフィギュアをコマ撮りしたPVが気になりました。
年末にはゆきしろさんの「上司が理解できない怪物『RGジオング』爆誕」。プラモデルが出来上がっていく様子を滑らかに表現し、これも大きな話題になりました。

オカダシゲルさんはホラー・アニメーション「変容シリーズ」を公開。これは普段様々なCMなどのアニメーターを務めるオカダさんのオリジナル作品。
小川翔さんは「読み聞かせチャンネル」の「しろくまの子」を手掛けます。
福島市の作家、吉田ヂロウさんは「」を公開。
ヨシムラエリさんが主催して「コマ撮れ!家リンピック2020」という企画も12月にありました。参加者は小川泉さん、永田ナヲミさん、華廣純子さん、日野馨さん、やまときょうこさん、ヨシムラエリさん、渡辺亮介さん。様々な素材を使った楽しい作品の数々でした。

他にもTOKYO MXでは藤井亮さんが手掛けた「別冊オリンピア・キュクロス」が放送されたり、NHKでは韓国の『COMMA STUDIO』が制作した「ボトスファミリー」を年末から年始に放送(2023年にも放送)。

恐る恐るではありましたが外出行動が戻り始めた頃、展覧会はコロナ対策の厳戒態勢で実施されました。銀座松屋では「ピングー40周年記念展」(8月)、京橋の国立映画アーカイブでは「川本喜八郎+岡本忠成パペットアニメーショウ2020」(12月)がありました。

さて、2019年の項で八代健志さん(TECARAT)ごん GON, THE LITTLE FOX」を取り上げましたが、大きく公開されたのはこの年。そして私の自主制作「DINO!」の完成もこの年。DINO!の撮影完了は1月13日でした。日本でコロナに感染した方が最初に出たのが1月15日だったそうなので、本当に日本国内のコロナパンデミックの直前に完成したことになります。
*音声のミックスまで終えた完成は8月

ただ、「ごん」も素晴らしい作品で話題になりましたが、この年は「JUNK HEAD」が席巻したと言っていいと思います。三宅敦子さん、牧野謙さんといった超優秀なスタッフの上に天才の堀貴秀さんがいた。個人的な感想ですが、少人数、独学という言葉は堀さんには関係なかっただろうというのが、2013年くらいから気にして見ていた身として思う事です。なのでこれは誰も真似が出来ないし、真似しようと思ったら潰れてしまうだろうと思います。唯一無二という言葉が正しいと思います。
牧野さんは2022年9月に急逝されました。メカメカしい独特の作品のクオリティは素晴らしく、技術開発にも勤しまれていました。

コロナウイルスのパンデミックとコマ撮り

思い返すと色々ありましたが、やはり異様な年だったと思います。私は経験しませんでしたが撮影現場ではフェイスガードをつけたり、手袋のまま(指なし手袋をする人はいますが)コマ撮りをするなど、相当な困難もあったようです。撮影の仕事がなくなった事もあったそうです。
大学等での教育方法も様変わりしました。東京藝術大学大学院はパソコンや照明、人形関節などを貸し出し。東京造形大学、東京工芸大学は人形の制作キットや道具などを郵送。アート・アニメーションのちいさな学校はマスクと消毒で注意しながらの集団制作だったそうです。リモート指導では制作中姿が見えないため、口述で方法を伝えたり資料を制作したりするのが普段よりも大変でしたし、あまりうまく伝えられない事が多かったです。また、これをきっかけに東京造形大学では人形制作にヒューズ線の利用をやめて入手しやすいアルミ線の利用に切り替えるなど、コロナの影響が制作スタイルを変える事にもなりました。
学校の良さの一つは実際に集まって学ぶ事でもあるので、それを封じられた中、ネット上の集合知から作られるYouTube動画などのクオリティを見ていると、学校とはなんだろうと考えさせられるものはありました。

その集合知でいうと、“おうち時間”が増えたために、アプリの「stopmotion studio」を利用した卓上コマ撮りなどが昨年からさらに増えたような印象です。それには間違いなく篠原健太さんの影響があったと思います。

そして誰もがどうにか作品発表をする術を模索していく中で、(コロナウイルスの影響ではありませんが)36年続いた広島国際アニメーションフェスティバルがこの年で終幕。地の映画祭も無観客や配信上映という形で、開催はするものの人が集まれないまま終わっていきました。正直にいえば、やっと完成させて映画祭などにコンペインしても上映に立ち会う事が出来ず、お客さんの反応も見られず、完成した実感が得られないために精神的にとても辛かったというのが実感です。この年に作品を完成させた作家は、その気持ちを抱えている人が多いのではないかと思います。

2021
コロナウイルス感染症の蔓延から1年。ワクチン接種が始まったものの、押し寄せる不安な日々を過ごす人々に癒しを与えたのは、見里朝希さんが監督した「PUI PUIモルカー」でした。キンダーテレビ(テレビ東京)の放送というよりyoutube配信がSNSに火をつけたという感じではないでしょうか。毎日twitterトレンドに上がるような事態に、多分ほとんどのコマ撮り関係者が目を見張ったと思います。つまりとても短い尺の番組であっても、毎週の放送に耐えられる(続けられる)コマ撮り作品というものがなかったからです。
そしてこの作品のスタッフは、いわつき育子さんや中堅になってきた高野真さん以外に、開發道子さんや佐藤桂さんなど東京藝術大学大学院の修了生が参加していました。

『dwarf』は「がん患者さん・医療関係者 応援ムービー『温かい手』を手掛けます。監督は合田経郎さん。そして『dwarf』と『TECARAT』が手を組んでギョロ 劇場へ」が出来ます。キャラクターデザイン合田経郎さん。人形とアニメーション八代健司さんでした。
それだけではなく八代健志さんは「プックラポッタと森の時間発表。実景の森の中でのコマ撮り作品です。

NHK朝の連続テレビ小説(朝ドラ)「カムカムエブリバディ」のオープニングを竹内泰人さんが手掛けます。朝ドラは意外とコマ撮りのオープニングがあり、これまでも例えば2009年「ウェルかめ」を『dwarf』が、2012年「梅ちゃん先生」を西尾巧さんが、2019年「スカーレット」を『dwarf』が、2021年「舞いあがれ!」を監督を新井風愉さん、アニメーションをおーのもときさんが制作しています。

プチプチアニメからはきしあやこさんの「ぽぽりす&フレンズ」。アニメーターは保田克史さん。カメラオペレーターに宇賀神光佑さん。「えとらせとら」を青松拓馬さん(dwarf)が監督し、スタジオプラセボが制作。
短編では秦俊子さんの「オイラはビル群」を制作。以前の「フィルとムー」と同じくWOWOW発の作品。
MVで村田朋泰さんが「YABI×YABI『Tong Ching Kahn』を制作。
CMではオカダシゲルさんがアニメーターを務めた「brother『想像力のそばに』」や、三宅敦子さんがアニメーターを務めた「アルフォート×Vaundy「出会い」篇」の印象が強いです。
JAROの「ダメダメ三匹のトークうそピョン篇15秒」は伊藤有壱さんと『UchuPeople』という先生と教え子によるCMでした。

その藝大からは副島しのぶさんの「Blink in the Desert」、松岡美乃梨さんの「Destiny」、髙木杏奈さんの「朝曇りは晴れ」などインパクトのある素敵な作品が輩出されました。
アート・アニメーションのちいさな学校から上野晴奈さんとタイガトモコさんの「アオアシドリくんとうきょうへいく」女子美術大学から粕淵梨央さんの「おじマンションず」など。
あと、香川県立善通寺第一高等学校 デザイン科3年生のコマーシャル「ダンボール応援PR動画」が最高です。

YouTubeからは陸人さんのフリスビー中によそ見をしてしまうコマ撮り人形」をはじめとするコマ撮りが話題になりました。20代の台頭が目立ってきます。

前年に話題になった「JUNK HEAD」の展覧会が開催されたり、伊藤有壱さんの「ハーバーテイルのすべて展」が開催されるなどもありました。

そして、何度かこれまでも名前が挙がっていた「ヒロアニメーションスタンド」の代表、高橋弘さんが亡くなられました。多くのアニメーション作家がスタジオを利用し、慕われていた高橋さん。Dragonframeの日本語版がない頃にマニュアルを制作されたことで助けられた人も多かったと思います。もうWEBサイトもなくなりリンクを貼る事も出来ないのが残念です。

2022
松﨑希光子さん、宇賀神光佑さん、小川翔大さん、長塚美奈子さんが「撮れた展。vol.02」を開催。ヨシムラエリさんのアニメーションスープが上映会+展示会「おら東京さ来ただ」を開催。阿佐ヶ谷の映画館、モーク阿佐ヶ谷でコマ撮りアニメーションフェスティバルが開催と、コロナ禍も2年が過ぎて上映イベントも増えました。
YouTubeのライブ配信では竹内泰人さんと阿部靖子さんが「コマドリレー」を開催。ゲストはオカダシゲルさん、山本真由美さん、上野啓太さん、宮島由布子さん(アトリエコシュカ)、錦織毅さん(スタジオプラセボ)土屋萌児さん、宮村和さん、小長谷陸人さん。

9月には20回目の学生アニメーション映画祭ICAF2022が開催されました。フェスティバル・ディレクターを私が務めた関係で、学校でのコマ撮り教育をテーマに、森まさあきさん(東京造形大学)伊藤有壱さん(東京藝術大学大学院)、真賀里文子さん(アート・アニメーションのちいさな学校)にインタビューを行いました。

放送や配信された作品では、監督と脚本がワタナベサオリさん、アニメーションが稲積君将さん、美術は『アトリエコシュカ』の「S.H.Figuarts 王様ランキング ボッジ&カゲ ストップモーション動画」。
『dwarf』が手掛けるNETFLIX「リラックマと遊園地」では3DCGとの組み合わせというチャレンジもありました。同じく『dwarf』に所属する小川育さんがNHKプチプチアニメで「空き缶のツナ」を制作しました。
武田浩平さん(スタジオビンゴ)の「A Maiden Made Not of Clay 」も武田さんの学生時代の作品の人形を思い出させる繊細さで印象に残りました。

武田さんの東京藝術大学大学院の後輩にあたる、新海大吾さんの1年次制作「しとしと」は雨の表現が興味深い作品。もう一つ池田夏乃さんの修了制作の「はなくそうるめいと」という作品もありました。海外で勉強中の中山莉佳さんによる「飛行機雲の流れ星の下」は自然の中で撮影された美しいコマ撮りでした。

コマーシャルで『都市ホテルブランド「OMO(おも) by 星野リゾート」』。ピクシレーションですがこれは傑作MV「Her Morning Elegance」(曲:オーレン・ラヴィー)のスタイルを踏襲。このMVは2009年ですが、当時たくさん寝そべってコマ撮りをする作品が作られたように思います。「Kracie『いち髪』日本の四季編」というタイムラプスを駆使して1年をかけて撮影した作品や、ユニクロがクリスマスにyoutubuで公開した「とある子ぐまのクリスマス」という作品もありました
コマ撮りとは異なりますが、変わったところではマジカループが面白いです。アニメーション玩具の「おどろき盤」を見るための仕組みはこれまでも少しありましたが、井上仁行さん(パンタグラフ)、村上寛光さん(株式会社フリッカ)他によるマジカループ」はその決定版だと思います。誰でも無料で簡単に操作できるアプリです。

大きな出来事としてNHKプチプチ・アニメが公募「KOMADORIチャレンジ」を行いました。発表は2023年でしたが、ここで評価された作品が実際にプチプチアニメになっていくという夢のあるお話で3588作品も集まったとのこと。

そして見里朝希さんを中心としたコマ撮りアニメーションを制作するために、2020年に『(株)WIT STUDIO』に作られたスタジオが移転、拡充。そこからどのような作品が生まれるのでしょうか。

2023
長年、アート・アニメーションのちいさな学校で指導をされてきた真賀里文子さんが昨年末に退職し、新たにマガリ塾を開講しました。開塾日の5月4日には真賀里さんにお世話になった方々やアニメーション関係者が多数駆けつけました。
そしてその日の夜、新宿の映画館バルト9で公開されていたのが「HIDARI」でした。監督は『Whatever』の川村真司さん(原案脚本監督)。川村さんについては2013年の項で「Life is Music」(曲:SOUR)というMVを紹介しています。この作品の同時上映が「こまねこ はじめのいっぽ」と「劇場版 ごん - GON, THE LITTLE FOX -」というように、『dwarf』と『TECARAT』がタッグを組んで参加しています。小川育さん(dwarf)も共同監督を務めます。この作品はまだあくまでもパイロット版で、これから長編を目指すとのこと。
アニメーターは稲積君将さんとオカダシゲルさん。稲積さんの縦横無尽なカメラワークと激しいアクション、そしてオカダさんの芝居がマッチアップしました。

『dwarf』はコンドウアキさんの描いたWOWOWのキャラクター「ウーとワー」が登場する「ウーとワーの漂流記 ~そうなんです~」という作品も手掛けました。この2023年は『dwarf』設立20年の記念の年となり、「ドワーフ・アートワークス コマ撮りアニメーションの世界」という会社の歴史が詰まった本が出版されました。この文章の分量的に全く入りきっていない数々の作品が掲載されており、スタッフ、スタジオの紹介などコマ撮り好きな人は絶対に手に取るべき一冊です。加えて「こまねこ公開撮影展」が渋谷パルコで、「マーサ21 こまねこ展」が岐阜で行われました。
さらに記念の年のトリとして「ドワーフ 20 周年展 ~どーもくん、こまねこからリラックマ、そして HIDARI へ。心が動き出すストップモーションの魔法。~」が12月に開催。
そしてNetflix から「ポケモンコンシェルジュ 」の制作が発表されました。監督は小川育さんです。

ワタナベサオリさんと稲積さんのコンビも目を惹く作品を連発。一つは「G7広島サミット2023 コンセプトムービー」もう一つは『トランスフォーマー/ビースト覚醒」ハイクオリティストップモーション【オプティマスプライマルとオテテクロンの戦い】』。扱う素材はそれぞれ異なりますが、どちらもカメラワークが面白いです。
ワタナベサオリさんはテレビ東京の「アニアキングダム」でも一部の話で監督を務めています。その番組ではオカダシゲルさんや小林玄さん、加藤鳳さんもアニメーターを務めています。
さて、すごい作品といえば土屋萌児さんが手掛けた大塚製薬ポカリスエットweb movie「スカフィンのうた」』。超絶技巧のカットアウトアニメーションです。
その他、短編作品では江口志帆さんの「サリューとキュマン」という優しい作品も素敵でした。中村古都子さんの「魔法の紫うさぎ」や洞口祐輔さんの「Mask the Flower」という作品もありました。NHKおかあさんといっしょでは「ねじまきジミー」をパンタグラフが制作。ニトリのクリスマスCM「願ったところにクリスマスはやってくる編」も人形アニメーションでした。

学生作品では東京藝術大学大学院の1年次制作で「しとしと」を制作した新海大吾さんの修了制作「ぼくがこわい黒いもの」が再び水の表現を活かしていました。さらに水といえば多摩美術大学大学院の陳林棟さんの「Return」はスライムを駆使して見たことのない表現をしていたと思います。
東北芸術工科大学からは佐藤杏奈さんの「ほしひつじ」。途中で立体ゾートロープが登場するアイデアが楽しい。そして藤澤美里さんの「エビフライの運動会」が傑作。日本テレビの「欽ちゃんの仮装大賞」に子供の頃出場したかった思いをコマ撮りで表現するという発想が面白く、動きも含めてとても愛らしい作品でした。さらに、沖縄県立芸術大学の根間笑花さんによる「マジムンノクニ」は(個人的に)久しぶりに拝見した沖縄からのコマ撮り作品。この根間さんは昨年末に行われた「KOMADORIチャレンジ」でグランプリを受賞。作品名は「もじゃとまじょ」といい、2024年にプチプチアニメとして放送されるそうです。

面白いところでは「小学書写(教育出版)で見られるコマ撮り。わたなべちよみさんによるコマ撮りが、教科書に載っているQRコードを読み取る事で見られます。わたなべさんは1960年代の項で紹介した高橋克雄さんの作品「いろであそぼう」(1973年)などに参加されていて、現在『CHIPs』という人形教室を開かれています。
他にも「デザインあ 解散!」岡崎智弘さんの第25回亀倉雄策賞記念展「 STUDY」が銀座グラフィックギャラリーで開催。Twitter(現:X)で毎日更新されてきたマッチ棒を使ったコマ撮りなどが、ループする事なく延々と上映される圧巻の展示でした。
上映としては前年にモーク阿佐ヶ谷で行われたコマ撮りアニメーションフェスティバルが発展。国際コンペティションを含んだMORCコマ撮りアニメーションフェスティバルとして12月に開催。
そして貴秀さんは「JUNK HEAD」の新作の制作を始めました。

年末も近い11月20日に評論家のおかだえみこさんの訃報がありました。おかださんは手描きのアニメーション以外に人形アニメーションにも造詣が深く、川本喜八郎さんに関する催しで何度かご一緒させていただきました。2003年に「人形(パペット)アニメーションの魅力」という本を出され、この分野へ多くの方の興味を誘ってくださいました。

<2023の頃
1950年代後半から60年代頭にかけてCMのコマ撮り“ブーム”で日本にたくさんのアニメーション制作会社が出来ましたが、テレビ番組制作の進歩とともに撤退が相次ぎました。
その後もコマ撮りはあまり増える事がないまま、CM、子供向け番組の中で活用されました。主に80年代に映画でも使われましたがCGの発展で縮小。再びCM、子供向け番組を軸に2000年代を迎えていきましたが、大学のアニメーション教育と学生アニメーションの盛り上がりの中で、徐々にコマ撮りは個性を活かした表現スタイルという評価に変化していったと思います。
そして動画サイトの発展やコマ撮りをアシストするアプリなどの進歩により、手の出しやすい表現として人形遊びの感覚で親しまれるようになりました。それに加えて「PUI PUI モルカー」や『dwarf』『TECARAT』のクオリティの高い作品などにより、またしてもコマ撮りがブームになりましたが、最近はやや落ち着き始めているように感じます。はっきり言えば「盛り上がっているのか?」という疑問符がつき始めています。
数年前に動画サイト上で話題になったクリエイターの動画投稿が減ったり、なくなってきたりもしています。それを良いように受け止めると、2020年頃に始めた人たちに実力が付き、現場に呼ばれ、現場アシスタントなどを経て仕事が忙しくなっているという事だと思います。しかし悪く受け止めれば(それは手描きでもCGでも同じですが)継続的に作り続ける事の難しさやアイデアの枯渇や趣味の変化があると思います。似通った表現が一気に増えれば飽きられるのも早くなります。最も自分自身が感じている危惧は“学生作品でコマ撮りはそこそこの数があるのに、そこから本格的なプロにまで進む人がほとんどゼロだということです。就職先や仕事量を考えた時に、遊びで行うまでは良いとしても仕事につなげるまでは決めにくいだろうと思います。
そのため、これからまだ話題になりそうな作品が控えているとはいえ、コマ撮りは三度の正念場を迎えつつあるように感じます。
未来にどうコマ撮りの文化を伝えていくのか?どのように後進を育てていくのか?という問題に多くの関係者が挑んでいる最中というのが、コマ撮りを取り巻く状況だと思います。

2024
NHK「プチプチアニメ」が30周年を迎えて、年始に特番を放送。そこで紹介された『TECARAT』の八代健志さんによる野外コマ撮り「春告げ魚と風来坊」が2月16日に放送。KOMADORIチャレンジから生まれた「もじゃとまじょ」(作:根間笑花)は4月29日に放送。そして最初期から続いている「ニャッキ!」はフィギュアやグッズが100円ショップで発売され話題になりました。他NHKだと村田朋泰さんの「ルカと太陽の花」が4月4日にEテレで放送。中村将吾さんがアニメーションを手がけた「いろどりのうた」(歌:STUTS、長岡亮介)がEテレ『あおきいろ』と『みんなのうた』で放送。
ところで村田朋泰さんは『新たな山、新たな火』という展覧会を2月28日から4月7日まで中村屋サロンで開催。
さて、「PUI  PUIモルカー」の長編映画発表という知らせがありましたが、今回はCGで制作するとのこと。
『ドワーフ』の小川育さんがNetflix 「ポケモンコンシェルジュ 」の第2話でアニー賞の監督賞候補に選出されました。また、「ポケモンコンシェルジュ」は続編の制作発表がありました。同じく『ドワーフ』の合田経郎さんは昨年撮影していた「こまねこのかいがいりょこう」を完成。4月6日にお披露目上映がありました。
木彫の人形を用いたアニメーションが特徴的な『TECARAT』ですが、「SO-NET」CMではキャラクターのPostpetを動かしています。

学生作品では東北芸術工科大学の武田明香里さんの「まよなかのさがしもの」がTOHOシネマズ学生映画祭で2賞を受賞。仕掛け絵本を模した人形アニメーションです。「Return」の多摩美術大学大学院、陳林棟さんは新作を制作中。まだ完成までかかるそうなので頑張って。