日本のコマ撮りアニメーション 平成〜令和(2010年代編 後半

2016
まず学生作品から。武蔵野美術大学から見里朝希さんの「あたしだけを見て」が登場。冒頭から見る人を惹きつける傑作です。
東京藝大学大学院からは小川育さんの「I think you're a little confused」。ホラー風味の作品です。木下絵李さんの「アンケート」は実写のような人形のような不思議な作品でした。
アート・アニメーションのちいさな学校では杉浦茂さん原作の「発明家ドンちゃん」を半立体の手法で長塚美奈子さん、ヨシムラエリさん、今井見月さんが制作。同じくちいさな学校からの「森の中の大きな家」は小川翔大さん、篠田小百合さん、志村千春さん、藪下 壮さん渡辺 諒さんによるグループ制作でした。
さらに多摩美術大学の加賀遼也さんが切り紙アニメーションで「oldman youngman」を発表。これも技術的に素晴らしかったです。
大学ではなく都立芸術高校からMOZUさんの「マルとマリ」も登場。ジオラマ制作で知られるMOZUさんが「故障中」に続いてコマ撮りに挑戦した作品でした。
次にNHK関係。プチプチアニメに映画監督の三池崇史さんが参入。作品名はころがし屋のプン」。アニメーターは稲積君将さんでした。
みんなのうたでは『スタジオビンゴ』が「2つのゆびわ」を制作しました。
短編作品としては八代健志さん(TECARAT)が「ノーマン・ザ・スノーマン~流れ星のふる夜に~」を発表。これもプラネタリウム上映でした。村田朋泰さんは現在も続く春になったら こぐまのユーゴ物語」を制作。サンドアニメーション(砂絵)などを制作する若見ありささんが出産をテーマにしたオムニバス作品「Birth-つむぐいのち」を発表。

コマーシャルからは『スタジオプラセボ』が制作した『いい部屋ネット「いい部屋ソング 冬」』が印象に残ります。もう一つ、ゼスプリの「キウイブラザーズ」が登場。アニメーターは峰岸裕和さん。

現在でもコマ撮り情報を次々と発信し、多くの方の助けになっている竹内泰人さんの「コマコマ隊のコマドリル」が始まったのもこの年でした。
アメリカからは『スタジオライカ』の日本を舞台にした「KUBO」が公開されました。

2017
日本のコマ撮りアニメーションの開祖、持永只仁さんの人形を一挙に集めた展覧会が国立映画アーカイブで行われました。多くの方が改めて持永只仁さんの名前や作品を知る機会になったと思います。展示に関してお手伝いさせていただきました。

さて、NHKプチプチアニメから「ユニコーンのキュピ」。監督は大橋弘典さん(Qmotri)アニメーターは夏川憲介さん(Qmotri)、オカダシゲルさん。「ふわふわアワー」は溝口広幸さん(スタジオプラセボ)
短編アニメーションでは雰囲気の異なる秦俊子さんの作品を2つ。一つはWOWOWの「映画の妖精フィルとムー」。アニメーターに阿部靖子さんと近藤翔さん。造形を宮島由布子さん(アトリエコシュカ)、池田恵二さん、三谷瞳さん、村田珠美さん。そして人形関節は川村徹雄さん。さらに撮影は高橋弘(ヒロアニメーションスタンド)。
そしてもう1作品はギャグ・ホラー作品?の「パカリアン」。

MVでは、まず竹内泰人さんが手掛けた「DJみそしるとMCごはん 『わたし、ごはん r.t.m. SHINCO」(曲:スチャダラパー)の米粒のコマ撮りがすごいです。
もう一つ、イメージの洪水に飲み込まれていくすごい作品が土屋萌児さんによる「青春おじいさん」(歌:中山うり)。
そして別の意味で驚異的な作品として橋本麦さんの「Fly feat.79,中村佳穂(歌:中村佳穂)。こちらは餅のコマ撮りですが、何よりカメラも餅やエビフライや団子が自由自在に動き回る様には驚きを通り越していきます。

コマーシャルからは「2万枚のDVDが顔に!?DVD FACE」。DVDやBlu-rayがだんだん消滅してきている今だからこそ、少し前のこの映像は当時より色々考えてしまいます。「ほけんの窓口『イイトコドリ』」は又吉浩さん。「minne」は井上仁行さん、江口拓人さん(パンタグラフ)と阿部靖子さん。俳優の佐々木希さんが登場する、物撮りのコマ撮りコマーシャルでした。
他にも『出光興産 創業106年記念 TVCM 「The History of IDEMITSU」』。切り絵を利用したアニメーションで、演出をワタナベサオリさん、アニメーションを稲積君将さん、井上二美さんという「死者の書」スタッフが勤めていました。
(YKK)クリエイターズワークス/CREATORS WORKS始まりの朝 (他、合計4作)」は『Lunch Box Studios』の大石拓郎さん。スタッフに垣内由加利さん、おーのもときさん、上野啓太さん、小川翔大さん、阿部靖子さん、キムラヒデキさん他が並ぶ大掛かりな布陣。
ポチと!ヨッシーウールワールド」もありました。マリオ関係とコマ撮りは本当に親和性が高いです。制作は『ドワーフ』。
学生作品では見里朝希さんが東京藝術大学大学院に進学し「Candy.zip」を制作しました。
*又吉さんは「THE BUGS」で1997年の文化庁メディア芸術祭で受賞されています

加えて、この年のアメリカのアカデミー賞に Max Porter and Ru Kuwahataによる「Negative Space」という作品がノミネートされました。このマックス・ポーターさんと共同監督のルー・クワハタさんは2015年の項で紹介した桑畑かほるさんです。

2018
日本の架空のメガ崎市を舞台にした「犬が島」(監督:ウェス・アンダーソン)が公開。上映館のあった六本木では人形やセットの展覧会も行われていましたが、お客さんが少なかった印象です、もったいない。

NHKプチプチアニメでは「ワーキングボーシーズ」アニメーターは早船将人さんと阿部靖子さん。みんなのうた「まどろみ(歌:大和田 慧)の制作宇賀神光佑さん。人形制作は小川翔大さん。
短編アニメーションでは竹内泰人さんが久しぶりの自主制作を完成。タイトルは「エンターテイナー」。
中村古都子さんの「MIXという作品もありました
『dwarf』は「モリモリ島のモーグとペロル」を制作。監督は合田経郎さん。アニメーターは峰岸裕和さんと篠原健太さんでした。さらに『dwarf』は日本テレビ「サバイバル・ウェディング」の劇中パートを制作。監督は合田経郎さんでアニメーターは峰岸裕和さん。美術に宮島由布子さんの『アトリエコシュカ』、斗真さんと小野さんの『Uchu People』。そしてキムラヒデキさん、小川翔太さん、塩田千草さん。
加えて、ネット発信ではRihito Ueさんの「StopMotion GAMERA ガメラvsギャオス 世界初!コマ撮り空中戦フィギュアバトル!」が話題になりました。

コマーシャルでは「Honda“ORIGAMI”」が素晴らしかったです。アニメーターは大石拓郎さん、垣内由加利さん、オカダシゲルさん、阿部靖子さんほか。
JAバンク 疾病サポート付住宅ローン『がんばるパパ』は『スタジオプラセボ』が制作こちらもスタッフが豪華。人形・美術に下井孝司さんと氏家裕太さん。氏家さんは伊藤有壱さんのスタジオ『I-TOON』で腕を磨き、プラセボでも活躍されました。現在は別のお仕事をされています。衣装は山本さん、野原三奈さん、奥津広美さん。アニメーションは溝口広幸さんと、こぐまあつこさん。そしてキャラクターデザインは村田朋泰さんでした。
ちなみに私も「東急電気&ガス『てるまる』のクレイアニメーションを複数制作しました。

MVでは「ドラマ」(曲:羊文学)のピクシレーション(というよりもタイムラプスのような)作品が目に留まりました。監督は竹内スグルさん。
*過去に私が初めてアニメートをした日立グループ「作ろう」のコマーシャルの監督でもあります。
「暁の鎮魂歌」(曲:Linked Horizon)ワタナベサオリさんと稲積君将さん。美術で『アトリエコシュカ』、キムラヒデキさん、近藤翔さんが参加。

学生作品は「芸大生が決死のコマ撮り!!〜進め芸大アニメーション〜(アニメーション専攻9期)」のピクシレーションが面白かったです。これはこの年の修了制作展のPR動画でもありました。その修了制作展でお披露目されたのが見里朝希さんの「マイリトルゴート」。数多くの賞に輝き、多くの方が見里さんを知る事になった作品です。

アート・アニメーションのちいさな学校からは小川翔太さん日置優里さん生雲智帆さんの「クレヨンと青い花」。江口詩帆さん、石井栄太さんの「In The Cage」などが発表されました。
学校関係でいうと伊藤有壱さんと教え子による「ストップモーションアニミズム展」という上映会が横浜と京都で開催されました。参加者の数と現在の活躍に、藝大アニメーションの勢いを感じます。
藝大繋がりで言えば、かつて「コタツネコ」などを手掛けた青木純さんによりネットを中心に話題になった「ポプテピピック」。東京藝術大学大学院修了生が多数参加したこの作品の中で当真一茂さんと小野ハナさんによる『UchuPeople』が「恋して♡ポプテピピック」を制作して話題になりました。

他にも吉祥寺アニメーションワンダーランド2018でストップモーション・アニメーション・フェスティバルが行われました。合田経郎さん、中村誠さん、村田朋泰さん、秦俊子さん、見里朝希さんといった面々の特集上映でした。

ところでこの年に、主に岡本忠成さんの人形制作で活躍された保坂純子(すみこ)さんが急逝されました。夫で「おしいれのぼうけん」の著者として知られる田畑精一さんも2020年に亡くなられました。保坂さんも田畑さんも人形劇団の人形座の出身で60年代から長きに渡り活躍されました。保坂さんの人形工房には若い制作者も複数出入りしており、後進の育成にも励まれていました。現在、数多くのコマ撮りアニメーションの現場の人形制作等で活躍されている山本真由美さんもその一人(筆頭)です。

2019
令和最初の年。
里さんの「マイリトルゴート」の出現に続き、コロナウイルスのパンデミック前年のこの年あたりからコマ撮り作品が急激に盛り上がります。
まず目を惹くのが篠原健太さんコマ撮り大道芸人”としてYouTubeでフィギュアコマ撮りを発表すると、あっという間に話題になっていきました。のちにAnimistとして作品を発表しながら、さらに若手育成にも挑まれています。

その篠原さんが当時所属していた『dwarf』がNETFRIXの「リラックマとカオルさん」を制作。これもまたすごいスタッフでした。峰岸裕和さん、大向とき子さん、保田克史さん、いわつき育子さん、垣内由加利さん、 野原三奈さん、オカダシゲルさん、稲積君将さん、高野真さん、阿部靖子さん、原田修平さん、篠原健太さん。90年代から2010年代までのキーになるようなアニメーター、アニメーション作家が集結した作品だったと思います。
ちなみに『dwarf』でもう一つ話題になったのがテレビ放送のアニメーション「BEASTARS」のオープニング根岸純子さんのアニメートでした。

さて、別のところで大御所集合となっていたのが長編作品「ニッポニアニッポン フクシマ狂想曲」(監督:才谷遼)このアニメーションには真賀里文子さん、野中和隆さん、伊藤有壱さん、石田卓也さんといったコマ撮りの歴史を支えてきた方々に加えて、鈴木沙織さんなどアート・アニメーションのちいさな学校の卒業生が関わっていました。

さらに(主な公開は2020年でしたが)八代健志さん(TECARAT)が大作ごん GON, THE LITTLE FOX」を完成させました。緻密に作られた造形セットの凄さ、広い背景を絵や合成では投影で行ったり、人形関節にも動きに合わせた工夫を行うなど、持てる技術を集めた作品でした。

大学院を修了した見里朝希さんはテレビ東京「けだまのゴンじろー」のエンディングを手掛け、『Uchu People』も「けだまのゴンじろー」20話Bパートを担当しました。
学生作品では東京藝術大学大学院の佐藤桂さんの「A Pawn」や副島しのぶさんの「鬼とやなり」。開發道子さん「レーテー」。多摩美術大学大学院の周小琳さんの「四月」。アート・アニメーションのちいさな学校の佐藤亮さん、田代彩奈さん、植村真史さんによる「I SEE YOU」などがありました。

短編アニメーションでは中村匠吾さんの「COMET」が美しい作品でした。中村さんはこれまで技術スタッフとしてNHK関係の仕事でも活躍されており、フリー転身後、満を持しての作品でした。ネット上に発信した「IMAGE TOY」も素晴らしかったです。阿部靖子さんもクレイアニメーション「Claypet」を発表。実際の手と、粘土のメタモルフォーゼするキャラクターをうまく合わせた可愛らしい作品でした。
鋤柄真希子さんと松村康平さんは「深海の虹」を完成。とにかく美しいの一言です。
さらにMV等で活躍されている辻川幸一郎さんの「てっちゃん」や、きしあやこさんの「Pen&Magic 」といった作品もありました。
加えて、小学6年生(当時)だというDrop Block Studioさんによる「LEGO-サカナクション 新宝島〜レゴでサカナクションの新宝島を再現してみた!」や12歳(当時)だというオフトンスキー0555さんの娘さんによるシルバニアファミリーを使ったコマ撮りのように、年齢性別など関係なく誰もが親しむ(時にレベルが高い作品が生まれる)ことが普通になりました。

他にもあります。九州の『空気株式会社(KOO-KI)』が「時を楽しむ時津町」(監督:木綿達史)というピクシレーションのPR動画を制作。丁寧なピクシレーションは見応えがあると感じさせてくれる作品。
『Lunchbox studios』の大石拓郎さんは(株)アマタケの「クックェリコ〜」を制作。細川奈々美さん、森本里紗さん、青柳清美さん、小西茉莉花さん、江口詩帆さん斎藤優佳さんがさんか。そして人形関節制作は川村徹雄さん。

上映会として、2019年に制作されたアニメーションを集めた「撮れた展。vol.01が12月に行われました。能勢恵弘さん(TECARAT)、上野啓太さん、やまだゆうこさん、ヨシムラエリさん他合計9名による1日限りの上映会は大盛況でした。
他にも吉祥寺アニメーション映画祭内ストップモーション・アニメーション・フェスティバルを開催。伊藤有壱さんとゼミ生の作品や、TECARAT、dwarf、中村誠さん、村田朋泰さん他の作品上映がありました。
池袋では東アジア文化都市2019豊島が開催され、そのパートナーシップ事業で持永只仁さんと川本喜八郎さんの作品上映に加えて、「雑司が谷が発祥地!人形アニメの祖・持永只仁と、川本喜八郎。教え子たちへの系譜」というシンポジウムが行われました。そのメイントーカーは電通映画社に詳しい和田敏克さんと持永さんのご息女の伯子さんが務め、私は末席に座って話を聞いていましたが、依頼を受けて「マンガアニメ3.0『持永只仁・川本喜八郎から「リラックマとカオルさん」まで』」を書きました。

<2010年代後半に関して>
不思議なことにコマ撮り界隈全体が徐々に下から突き上げられ、盛り上がっていく気配を感じました。以前より作品のスタッフ表が公表されている作品(CM等)が多くなってきて、こうして書く時に文字量を収めるため少し削りたいものの削りにくいというジレンマが書いていてありました。ネット発信はさらに増えて、入れたいけれど分量的に入れられない作品がどんどん出てきました。(仕方なくこれまで毎作品書いていた方の作品もあえて外したりしています)
展覧会や上映会なども増えたような気がします。海外から来るコマ撮り作品も多くなりました。
そのため、勝手に変遷をまとめているものの整理が追いつかなくなった印象があり、これまでよりも内容に誤りのある不安があります。
そして、この盛り上がりの現象を“不思議なこと”と書きましたが、お仕事関係でいうとこれまでコマ撮りの仕事に従事されてきた“若手”が成長して全体的に脂が乗ったのかもしれません。それによって出てくる作品の質の高さに目を奪われることが多くなったのかもしれません。何にしろ、次々と記憶に残る作品が出てきた印象の5年間でした。
また、見里朝希さんの登場は2000年の村田朋泰さんの登場と重なりますが、20年の間に情報発信の大きさが変わったと思います。それは篠原健太さんの登場も同じで、一度話題に火がつくと一気に広がっていく勢いを強く感じました。篠原さんに触発されてフィギュアコマ撮りに挑戦する人が山のように現れたと思います。何よりこれまで専門用語だった“タンク”やバレ消しという言葉(文字)をすごくたくさん目にするようになりました。
そして八代健志さんの「ごん」の登場はコマ撮り全体の技術の底上げが起きたような気がしました。

一方で、作品に関わるフリーランスのスタッフがたくさん会社や仕事を掛け持ちしているように思います。優秀なスタッフは引く手数多で、現場は大忙しという状況になっていると思います。人手不足が段々顕著になってきたのが目に見えるようになってきました。
つまり趣味で制作したり、動画サイトに自作を投稿する人は増えたものの、専門的な仕事にする人はあまり増えていないのではないでしょうか。また、2000年代初頭に現れたクリエイターがこの頃の盛り上がりまでにコマ撮りをやめている事もあります。

ただし、コマ撮り界隈だけでなく、2010年代後半くらいから“藝大生”や他の美大生がテレビや映画のアニメーション(つまり“商業アニメ”と言われてきた分野)にどんどん入ってきました。“商業とアート”という区分けは、制作をしている実感は崩れてきたように思います。その一つの大きな結果が2021年に出てきます。